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最高裁判所第一小法廷 昭和29年(あ)57号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人逸見惣作の上告趣意第一点について。

貸金業等の取締に関する法律二条は、この法律において、「貸金業」とは、何等の名義をもってするを問わず、金銭の貸付又は金銭の貸借の媒介をする行為で業として行うものをいうと定義している。されば、同法律施行の際現に貸金業を行っている者が、同法施行後従前からの貸金につきその条件を変更し又はその支払期日を延期する等その貸金債権を準消費貸借に改め又はその支払を延期する行為も右にいわゆる金銭の貸付と解するのが相当である。そして、第一審判決の判示並びに挙示の証拠によれば、第一審判決の判示二の三万円の貸金は、判示日時に同法施行前から貸与していた無利息のものを月一割と定め、判示三の五万円の貸金は、判示日時に同法施行前より貸与していた元金にそれまでの利息を加えたのを元金とし、利息月一割と定め、右消費貸借又は準消費貸借の支払を確保するため約束手形を振出させてこれを受取り、もって従前の貸金債権を満期日まで支払を延期し又は準消費貸借に改めたことを判示したものと解される。されば、被告人の右所為は、前段の説示に照し同法にいわゆる金銭の貸付をしたものというべく、これと同趣旨に帰着する原判決は、結局正当であって、所論の違法は認められない。

同第二点について。

貸金業等の取締に関する法律二条一項にいう「貸金業」とは、反覆、継続の意思をもって金銭の貸付または金銭の貸借の媒介をする行為をすれば足り必ずしも報酬若しくは利益を得る意思またはこれを得た事実を必要とするものでないことは、当裁判所大法廷の判例とするところである(判例集八巻一一号一八六〇頁以下参照。)されば、原判決が、所論控訴趣意第三点及び第五点についてなした判示において、前記「貸金業」たるには、金利又はこれに準ずべき利益を取得しなければならない旨説示したのは失当である。しかし、「貸金業」たるには、反覆、継続の意思を以て金銭の貸付またはその媒介をすれば足りるものであるから、かかる反覆、継続の意思を以てした以上その貸付又は媒介がただ一回であってもこれを業としたものといわなければならない。そして、原判決の判示は、第一審判決挙示の証拠によって、被告人が本件貸付行為を反覆、継続の意思をもって、すなわち、業として行ったことを認定判示した趣旨と解されるから、原判決には、結局所論の違法は認められない。

よって、刑訴四〇八条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

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